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オークの女 1

last update Last Updated: 2025-10-24 20:55:34

 一番先頭にいるオークの、おそらくは女であろう者が、後ろで結ってまとめた栗色の髪を揺らしながらこちらへ近付く。

 そして、剣先と殺意をムツヤに向けて質問をする。

「異国の者だろうと関係はない。何をしに来た」

「あのですねぇー、こっちにさっぎ結界から通っで来だばかりでしてぇ、怒らせだのなら謝るんで許してくださいませんか?」

 ムツヤは両手を胸の前で開いて言った。

 戸惑っていたし、恐かった。

 モンスター相手の戦いであれば慣れたものだが、対人戦は経験がない。

 サズァンと戦うことを渋ったのも、サズァンを好いてしまった事の他に、内心では人と戦う恐怖もあったのだ。

 オークは互いに目を合わせる。

 目の前の人間の言っていることが何一つ理解できない。

「とにかくだ、その剣に鎧、上質な物だろう、ただの冒険者ではないな? まずは武器を捨ててこちらに投げろ」

 ムツヤは頷くと剣を女オークの元に放り投げた。

 地面に落ちたそれらを女オークは自分たちの背後へ蹴飛ばした。豚のようなオークがムツヤに次の命令をする。

「次は鎧を脱げ。いや、ナイフでも隠されていたらたまらん、荷物と服も全て地面に置け」

 鎧とカバンはまだ良いが、服を脱ぐのは流石に抵抗があった。しかしオーク達は剣と斧を構えて無言の圧力を掛ける。

 月明かりに照らされながら外の世界に来て早々ムツヤはパンツ一丁にされてしまった。

 サズァンから貰ったペンダントが胸元をひんやりと冷やし、そして最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。

「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」

「なんだ」

 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。

「ご、これから私はーあのーいわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」

「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」

 女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。

「貴様もオークは性欲の化物のように思っているのか、我らを愚弄するか、私は今にも貴様を斬り殺したくてたまらない!」

 初めて祖父以外に怒られたムツヤはビクビクとしている。

 パンツ一丁で。

 しかし女のオークがムツヤに近付いた瞬間、ペンダントが光りだし、目の前の空間に褐色の美女であり邪神のサズァ
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